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水戸地方裁判所 昭和49年(行ウ)1号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

【判旨】

一請求原因1、2のとおり、従前地(第一、第三の各土地)に対する一時利用地(第二、第四の土地)として昭和四八年五月八日付で被告が原告宛に本件一時利用地指定処分をした事実、その際、従前地の面積は公簿面積を基準とした事実、原告所有の第三の一の土地と善津恵所有の第三の二の土地とに対し、一括して第四の土地一筆を一時利用地として指定した事実は、いずれも当事者間に争いがない。

二そこで、まず、従前地の面積につき、公簿面積を基準としたことが無効か否かについて検討する。

1 <証拠>によれば、以下の事実を認めることができ<る。>

(一) 被告は昭和二八年一月に設立され、昭和四六年一〇月ころから、本件土地改良事業(対象面積約一〇七ヘクタール)を開始したが、その当時の被告の規約(昭和四一年一一月二一日改正施行)五三条には「換地交付の基準とすべき従前の土地各筆の地積は土地原簿に掲げられた地積によるものとする。」旨が定められており、被告は設立以来、土地改良事業における換地については、公簿面積を基準として行なつてきていた。

もつとも、公簿面積と実測面積とが異なる場合に、いかなる措置をとるかは、定款及び規約上何ら定められていないものの、被告が本件土地改良事業を行うに際しては、その対象区域内の地権者の同意を得るため、三、四回にわたり、地区の公会堂等において地権者を集めて説明会を開いており、その際、「公簿面積と実測面積とが異なるとする者は公簿面積を訂正されたい。」旨の説明をし、かつ了承を求め続けていた。

(二) 本件土地改良事業についても、事業認可申請(昭和四六年一〇月ころ)に際して県知事に提出した本件土地改良事業の計画概要書の第六章において「従前地の地積の基準は昭和四六年四月一日現在における土地登記簿の地積とする。」旨明記されており、右計画概要書は、昭和四七年六月二三日から同月二八日までの間定款とともに事業対象地区である茨城県稲敷郡東村及び同郡江戸崎町役場において公告された。

そして、最終的には、昭和四七年七月一七日、被告土地改良区会議室において開かれた換地委員会において、「従前地の地積の基準については、昭和四七年七月一日現在の土地登記簿に記載された地積とする。」旨の決定が全員一致で成立し、これに基づいて、昭和四八年五月八日付で本件一時利用地指定処分が行なわれた。

(三) 原告は、昭和一二年ころに従前地を入手して以来、これをいわゆる第二農場として所有ないし占有耕作してきており(ただし、原告は五町六反歩位を農耕用地と理解しており、農耕には小舟を使用する泥沼的な田であつたため、米の一毛作をしてきていた。)、他方、農地改良事業にも昭和三二年ころから深く関与してきており、地元の津和上農地交換分合委員長、清水地区土地改良準備委員長を歴任し、さらにこれに引続いて被告の一部門の要職(換地委員会顧問)に就任していたこともあつて、従前から一般に土地改良事業においては、公簿面積を基準として換地処分がなされることを承知しており、本件土地改良事業についても、右と同様に公簿面積を基準とすることは、地元で開かれた前記の被告開催の説明会に出席するなどして、これを十分に認識していたところ、本件土地改良事業が具体化し始めた昭和四六年ころから昭和四八年五月八日付の本件一時利用地指定処分までの間、原告は被告に対しこの点につき「従前地を公簿面積で確定して、原告に対する一時利用地を指定することは、減歩が多すぎて、原告としては承服し兼ねる。」趣旨のことを申出たりして異議を述べたり、あるいは地積の訂正を実行したりしなかつたばかりか、本件土地改良事業における換地委員会顧問という換地委員と同等の立場にあつて、昭和四七年七月一七日の前記換地委員会に出席し、前記(二)のとおりの決議に賛成した。

2  ところで、土地改良事業にあたつては、換地処分及びその前段階としての一時利用地指定処分につき、従前地の実測面積を基準として爾後の計画、処分を実施するのが合理的であることはいうまでもないが、その施行区域が広範囲、かつ泥沼的農耕地である場合などにおいて、実測面積をもつて従前地面積確定の基準とすることは測量のために莫大な費用と労力を必要とし、また計画の実施を著しく渋滞せしめるから、特に希望する者に限り実測面積により得る途が開かれている限り、原則として公簿面積により基準面積を定める方法をとつても憲法二九条に違反するものではないと解される。

しかして、前記各認定事実によれば、被告の定款及び規約には地権者が最終的に実測面積によりうるための途を規定した条項が全く存在しないのであるから、この点において本件一時利用地指定処分が手続上の瑕疵を帯びていることは否定できないものの、原告は、本件土地改良による換地は従前地の公簿面積を基準として行われるものであるが、公簿面積と実測面積とが異なる場合には公簿面積を訂正することによつて自己の権利を擁護する手段のあることを知悉していたのであるから、原告が遅くとも基準日である昭和四七年七月一日までに登記簿上の地積を訂正することは、時間的にも能力的にも、十分可能であつたはずであり、にもかかわらず原告は何らこれを実行しなかつたばかりか、本件一時利用地指定処分が行われるまで被告に対し何ら異議を述べず、かえつて公簿面積を従前地の基準面積とすることに賛成したというのであるから、右手続上の瑕疵をもつて、原告に対する本件一時利用地指定処分を無効ならしめる重大な瑕疵ということはできないというべきである。

なお、原告は、第一及び第三の土地(小作地を含む。)の実測面積は、別紙地積計算表のとおり、その一部について明らかに公簿面積を上回つているのであるから、全体の実測面積はそれぞれ二万八二二九平方メートル、三万六〇五四平方メートルを下回るものではない(公簿面積は、第一の土地と小作の小林分との合計が二万七八〇五平方メートル、第三の土地と小作の福田分との合計が二万七〇六七平方メートル)旨主張し、その根拠として甲第二号証(求積図)を援用する。

しかしながら、<証拠>によれば、右求積図は土地家屋調査士である同証人がこれを作成したものであるが、その基となった図面は原告が持参した平面図(乙第二号証の二ないし四)の関係部分のコピーであり、同証人は右平面図上で原告が指示した部分を転写したうえ図面上で各境界点間の距離及び面積を計測したものであること、右求積図に示された原告所有地の各筆の形状は公図上の形状と全く異なつていること、原告は本件各土地を撮影した航空写真を示された際にも自己所有地と他との境界を適確に示しえないこと、が認められ、これらの事実によれば、甲第二号証をもつて、実測面積の根拠となしがたいことは明らかである(なお、原告は「第三の土地のうち、字前浦一五三八番三〇及び三二の甲第二号証による実測面積が七九八四平方メートルである」と主張する((これに対し両土地の公簿面積の合計は五二八平方メートル))が、甲第二号証によれば同番三〇及び三一の合計実測面積が七九八四平方メートルとしているのであるから、原告の右主張は誤解に基づくことが明らかである。)から、他に実測面積を示す証拠がない本件においては、原告の右主張を肯認することができない。

また、原告は、「従前地の面積を公簿面積として本件一時利用地指定処分を行なつたため、相当の余剰地が生じた。」旨主張するが、これを認めるに足りる証拠は存在しない。

三次に、原告所有の第三の一の土地と訴外善津恵所有の第三の二の土地とに対し、一括して第四の土地一筆を一時利用地として指定したことが無効か否かについて検討する。

<証拠>によれば、本件一時利用地指定処分は、各耕作者の申出に基づき作成された耕作申告者台帳(名寄帳)に基づいて行なわれたものであるところ、第三の一、二の土地は隣接地でその耕作状況も後記のとおりであつて、一時利用地指定に当つては、第三の一の土地と第三の二の土地について一括して指定されたい旨の原告からの申出があつたこと、右台帳には、第三の一及び二の土地とも原告が耕作者である旨記載がなされていること、被告改良区の組合員名簿や財産台帳には善津恵は載つておらず、すべて原告名で記載されていること、右各土地の現実の耕作も原告(明治三六年生)、原告の長男善也(昭和九年生)及び善津恵(昭和一三年生)が共同でおこなつており、その収支も共同ないし混合していること、原告と善也は同居しており、善也が原告の跡取りの立場にあるが、善津恵も原告、善也と同一の敷地内で生活していること、以上の事実が認められ、<証拠>のうち右認定に反する部分は措信できず、他に右認定事実を左右するに足りる証拠はない。

しかるところ、右の認定事実によれば、第三の一及び二の土地ともその耕作者は原告であつて、善也及び善津恵は原告の耕作補助者と認め得るのであり、また原告から一括して一時利用地指定することを希望する旨の意思表示があつたのであるから、そうとすれば、第三の二の土地の所有名義が善津恵であつても、この土地につき原告に対し一時利用地指定処分を行なつても何ら違法というべきではない。けだし、一時利用地指定処分は換地処分までの間一時的に、その指定地について使用収益する権能を許容する処分であつて、土地所有関係と直接関連する問題ではないからである。

四以上によれば、原告側で指摘する無効原因はこれを肯認し難いというべきであるので、本件一時利用地指定処分の無効確認を求める本訴請求は理由がないから失当として棄却する。

(龍前三郎 新崎長政 大澤廣)

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